履歴交通量データ

ArcGIS Network Analyst エクステンションでは、履歴交通量情報を使用して、道路上での時間依存の移動速度をモデル化することができます。そうすることで、予想される移動時間と到着時間はさらに信頼性が高くなり、実際に運転に費やす時間は、交通量のパターンを無視した場合に比べて少なくなります。

ヒントヒント:

Network Analyst チュートリアル データは、ArcGIS.com で入手でき、交通量データを含むサンフランシスコ ジオデータベースが用意されています。SanFrancisco.gdb に含まれている Streets フィーチャクラス、DailyProfiles テーブル、および Streets_DailyProfiles テーブルを詳しく検討すると、このトピックの理解が深まります。データをダウンロードして抽出すると、サンフランシスコ ジオデータベースは \Network Analyst\Tutorial\SanFrancisco.gdb に配置されます。

Network Analyst チュートリアルの演習の詳細

注意注意:

交通量データはジオデータベースでのみ構成可能です。シェープファイル ベースのネットワーク データセットでは構成できません。

Network Analyst で使用する履歴交通量データの作成

データを第三者から受け取る場合でも、それをネットワーク データセット内で正しく構成できるようにするために、履歴交通量データの作成方法を理解しておくことが重要になります。このセクションでは、Network Analyst が採用しているモデルの概要を説明します。

交通量データは移動速度の連続的な増減を捉えるため、エッジの各移動方向に、時刻に応じて変化するコストが多数ある可能性があります。これは、エッジ方向ごとに 1 つの値のみが許可される一般的なコスト属性とは対照的です。

1 つのエッジ方向につき複数のコストをモデル化する方法はいくつかあります。Network Analyst で特定のモデルが使用される理由を理解するには、交通量のモデル化で最もよく使われる方法の短所を理解することが重要です。

Network Analyst で履歴交通量のモデル化に使用されない方法

履歴交通量データを保存するための方法の 1 つは、各エッジについて一連のコストを作成するというものです。このコストは、1 週間にわたって異なる時刻の走行速度を表します。たとえば、1 週間は 168 個の分離した 1 時間の間隔に分割することができます。つまり、交通量が 1 週間に変化する傾向を表現するには、168 個のコスト属性が各エッジに必要になります。時間分解能を高めるために時間間隔を 5 分に短縮すると、各エッジには 2,016 個のコスト属性が必要になります。特に大規模なネットワークの場合、これらの一意の値をすべて格納するには大きな空間が必要になります。さらに、多くの道路では 1 日中コストが変わらないため、不必要なデータの重複が数多く生じます。こうした理由から、Network Analyst では、このモデル化の方法は有効ではありません。

Network Analyst で履歴交通量をモデル化する方法

ArcGIS は、すべての交通量データをフィーチャ単位に格納せずに、正規化されたモデルを使用してデータのサイズを最小限にとどめています。フィーチャごとに 168 または 2,016 のコスト属性を格納する代わりに、関連テーブルを作成してこの情報を保持します。テーブルの各行には、1 日の間隔ごとの速度(あるいは移動時間)が入ります。1 行は交通量プロファイルで、1 日の中で速度がどのように変化するかを表します。たとえば、移動速度が 1 日を通じて一斉に変化する、時速 35 マイルの一般道路が多数ある場合は、交通量プロファイル テーブルにその動的な変化を表す行を 1 行作成して、これらすべての道路が同じ行、つまり交通量プロファイルを参照するように設定できます。後で説明するように、1 日を通じて同じ交通量のパターンを示す、速度制限が異なる道路についても、同じ交通量プロファイルを参照できるように改良することができます。

この交通量モデルに対する理解を深めるために、月曜日から 1 週間にわたって、一方通行の道路セグメントについて、このモデルを使用して移動速度を記録し、保存する必要があると仮定します。最初に、順調に流れているときの速度、つまり車両が交通量によって走行を妨げられずに移動する速度を決定します。順調に流れているときの速度を決める方法は自由に選択できますが、通常は速度制限、または他の車両がないときに測定した車両の平均速度になります。ここでは、測定した車両平均速度を選択し、順調に流れているときの速度を時速 70 マイルとします。

これで、1 日を通して同じ間隔、つまりタイム スライスで測定を行うことができます。選択した間隔は、データの一時的な解像度になります。1 時間、または 10 分などの間隔を選択できます。ここでは、5 分間隔を選択することにします。測定値は、順調に流れているときの速度の縮尺係数として記録されます。この縮尺係数は、0 ~ 1 の範囲内に制限されます。対象の車両が午前 8:00 に時速 28 マイルで移動しているとします。これは順調に流れているときの移動速度の 0.4 倍です。午後 5:00 の平均速度は時速 60 マイルで、順調に流れているときの移動速度の 0.85 倍です。午後 11:00 になると道路上に車両がほとんどなくなり、平均速度は時速 70 マイルでした。これは、順調に流れているときの速度に等しく、縮尺係数は 1 になります。

移動速度の測定

1 日の測定が完了したら、交通量プロファイルのテーブルを参照して、測定した 1 日の相対的な速度の変動に最もよく一致するプロファイルを 1 つ選択します。

交通量プロファイル 68(下図にプロット)を、このセグメントの月曜日の移動時間を表すプロファイルとして選択します。

グラフ上にプロットした測定結果
交通量プロファイル 68 を選択したのは、その相対的な移動速度が道路セグメントの測定値と極めて近いためです。

注意注意:

プロファイルの時刻は常に現地時間、つまり参照エッジが属するタイム ゾーンを表しています。したがって、プロファイル 68 を参照するロサンゼルスのエッジでは、太平洋標準時の午前 8:00 の速度は順調に流れているときの速度の 40% になります。同じプロファイルを参照するニューヨークのエッジでは、東部標準時の午前 8:00 の速度は順調に流れているときの速度の 40% になります。

ネットワーク データセットへのタイム ゾーンの追加の詳細

選択対象となる交通量プロファイルの数に制限はありません。プロファイルが多いほど、移動時間を正確にモデル化できる可能性が高まります。ただし、プロファイルが少ないほど、データの格納領域の要件を抑えることができます。正確性と格納領域の要件のバランスを取ることが重要になります。大きい道路ネットワークでは、数十から数百個の交通量プロファイルを持つのが普通です。

月曜日のプロファイルは選択しましたので、他の曜日についても同じプロセスを繰り返す必要があります。再確認のためにそのプロセスをまとめると次のとおりになります。

  1. 道路セグメントの順調に流れているときの移動速度を測定するか計算します。(これはどの曜日でも同じなので、繰り返す必要はありません)。
  2. 1 日を等間隔に分けて、それぞれの平均速度を測定します。
  3. それぞれの速度を、順調に流れているときの速度の縮尺係数(0 から 1 の間)に変換します(速度ではなく移動時間を直接モデル化する場合は、縮尺係数を 1 以上にする必要があります)。
  4. その曜日の道路セグメントの交通量を表すプロファイルを選択します。

交通量プロファイル 68 が残りの平日についてもこのセグメントに適合することを確認します。一般的な交通量のパターンは平日ならどの曜日でも同じことが多いため、多くの場合この適合性を確認できます。それでも、曜日によって使用するプロファイルが異なるケースも珍しくはありません。たとえば、月、火、水は同じプロファイルを使用し、木と金は別のプロファイルを使用する場合などです。

このセグメントでは土曜日と日曜日は交通量が少なく、一定しているため、週末の移動時間を表す交通量プロファイル 3(下図)を選択します。

道路セグメントの週末の移動速度に適合する交通量プロファイル

次に、順調に流れているときの速度と、道路セグメントと交通量プロファイルのリレーションシップを道路 - プロファイル結合テーブルに格納します。次のセクションでは、このテーブル、およびその他の必須入力について検討します。

ジオデータベースへのデータとリレーションシップの格納

履歴交通量データを持つネットワーク データセットを作成するには、ジオデータベース内に 1 つ以上のライン フィーチャクラスと 2 つのテーブルが必要です。道路を表すこのライン フィーチャクラスは、フィーチャ データセットに格納する必要があります。速度プロファイルを 1 つのテーブルに格納し、道路と速度プロファイルのリレーションシップをもう 1 つのテーブルに格納します。ネットワーク データセットに履歴交通量を設定するために必要なこれらのアイテムとフィールドについては、以降のサブセクションで説明します。

注意注意:

道路と速度プロファイルのリレーションシップは、一意の識別子の値をテーブルに格納することによって簡単に作成できます。リレーションシップ クラスを作成する必要はありません。

道路フィーチャクラス

各道路フィーチャは一意の識別子(ObjectID 値)を持ちます。道路 - プロファイル結合テーブルは、一意の識別子を使って、道路をそのさまざまな交通量プロファイルに関連付けます。

Streets 属性テーブルからの抜粋

履歴交通量データを設定するときに他のフィールドを使用できる場合があります。それらのフィールドを以下に一覧表示し、この後で詳しく説明します。

フィールド

フィールド名の例

説明

全時間の(時間によって変化しない)移動時間

FT_Minutes

TF_Minutes

交通量を使用するルート解析または配車ルート解析で、ロケーションを順序付けするときに使用するネットワーク コスト属性を作成する

平日の移動時間

FT_WeekdayMinutes

TF_WeekdayMinutes

道路セグメントに平日の履歴交通量プロファイルが関連付けられていない場合に使用するネットワーク コスト属性を作成する

(全時間の移動時間がしばしば平日固有の移動時間としても使用される)。

週末の移動時間

FT_WeekendMinutes

TF_WeekendMinutes

道路セグメントに土曜または日曜日の交通量プロファイルが関連付けられていない場合に使用されるネットワーク コスト属性を作成する

タイム ゾーン

TimeZoneID

ネットワークが複数のタイム ゾーンにまたがるときに必要なタイム ゾーン ネットワーク属性を作成する

プロファイル テーブル

交通量プロファイル テーブルの各レコードには、一意な識別子と、1 日のさまざまな時間の順調に流れているときの縮尺係数を格納する複数のフィールドがあります。1 日を同じ時間幅の間隔(タイム スライス)に分割します。つまり、24 時間を等間隔に分割することになります。たとえば、タイム スライスが 5 分間の場合、288 フィールドが必要になります(午前 12:00 ~ 12:05 に 1 つ、12:05 ~ 12:10 に 1 つ、など)。

Network Analyst のチュートリアル データのサンフランシスコ ジオデータベースには、5 分のタイム スライスで 1 日分に対応できるプロファイルがあります。[SpeedFactor_0000] フィールドは、午前 0:00 ~ 0:05 の間の順調に流れている時の縮尺係数を含みます。[SpeedFactor_1140] フィールドは午前 11:40 ~ 11:45 の間の乗数を含みます。道路フィーチャがプロファイルに関連付けられるとき、1 日のどの時間においても予想される移動時間を得ることができます。たとえば、道路をプロファイル 16(下図参照)に関連付けると、道路の順調に流れているときの移動時間にプロファイルの [SpeedFactor_1140] の値(0.889)を乗算して、午前 11:41 の予想される移動時間を計算できます。

プロファイル テーブルからの抜粋

注意注意:

パーソナル ジオデータベースでは、テーブルのフィールド数が最大 255 個に制限されています。一部の ArcSDE ジオデータベースでも、フィールド数に同様の制限があります。したがって、交通量プロファイル テーブルのフィールド数を削減するためにデータを間引くことが必要になる場合があります。たとえば、交通量プロファイル テーブルを 5 分間隔に設定し、パーソナル ジオデータベースに格納しようとすると、288 個以上のフィールドが必要になるため、これは実現不可能です。その代わりに、65,000 より多くのフィールドをサポートするファイル ジオデータベースを使用するか、午前 0:00 ~ 3:00 の間のように交通が順調に流れる傾向にあるとき、速度が変わらない時間帯のフィールドをいくつか削除することができます。

道路 - プロファイル結合テーブル

道路 - プロファイル結合テーブルは、道路フィーチャ、その順調に流れているときの速度(または移動時間)、曜日ごとの関連プロファイルを指定します。次の表は必須フィールド、フィールド名の例、可能なデータ タイプ、簡単な説明を示しています。

フィールド

フィールド名の例

データ タイプ

説明

エッジ フィーチャクラス識別子

EdgeFCID

このフィールドの名前は EdgeFCID にしなければなりません。

Long integer

道路フィーチャが格納されるフィーチャクラスを指定します。

エッジ フィーチャ識別子

EdgeFID

このフィールドの名前は EdgeFID にしなければなりません。

Long integer

道路フィーチャを指定します。

エッジの方向

EdgeFrmPos

このフィールドの名前は EdgeFrmPos にしなければなりません。

Double

EdgeToPos と組み合わせて、移動の方向または道路の側を示します。ゼロは、デジタイズの方向で決まるライン フィーチャの始点を示します。1 はその反対側を示します。

たとえば、EdgeFrmPos の値が 0 で EdgeToPos の値が 1 なら、(右側通行と仮定すると)ライン フィーチャの右側を示します。同じレコードにリストされている交通量プロファイルは、道路のそちら側の交通量のみを表します。

10 進数値は、フィーチャのデジタイズ方向に沿った位置を指定します。これにより、[ネットワークのディゾルブ(Dissolve Network)] ツールは、エッジがディゾルブされた後も道路の正しいプロファイルを維持できます。

エッジの方向

EdgeToPos

このフィールドの名前は EdgeToPos にしなければなりません。

Double

EdgeFrmPos と組み合わせて、移動の方向または道路の側を示します。

基本速度フィールド

または

基本移動時間フィールド

BaseSpeedKPH

または

FreeflowMinutes

float または double

順調に流れているときの速度。必要に応じて、順調に流れているときの移動時間。

基本速度フィールドの場合は、時速キロメートルまたは時速マイルで表すことができます。基本移動時間フィールドの場合は、日、時間、分、秒のいずれかで表すことができます。

日曜日の ProfileID フィールド

Profile_1

SundayProfile

short または long integer

EdgeFCID、EdgeFID、EdgeFrmPos、EdgeToPos で指定される道路の部分について、日曜日の交通量パターンを最もよく表すプロファイル ID。

月曜日の ProfileID フィールド

Profile_2

MondayProfile

short または long integer

月曜日の交通量を最もよく表すプロファイル ID。

火曜日の ProfileID フィールド

Profile_3

TuesdayProfile

short または long integer

火曜日の交通量を最もよく表すプロファイル ID。

水曜日の ProfileID フィールド

Profile_4

WednesdayProfile

short または long integer

水曜日の交通量を最もよく表すプロファイル ID。

木曜日の ProfileID フィールド

Profile_5

ThursdayProfile

short または long integer

木曜日の交通量を最もよく表すプロファイル ID。

金曜日の ProfileID フィールド

Profile_6

FridayProfile

short または long integer

金曜日の交通量を最もよく表すプロファイル ID。

土曜日の ProfileID フィールド

Profile_7

SaturdayProfile

short または long integer

土曜日の交通量を最もよく表すプロファイル ID。

道路 - プロファイル結合テーブルの例として、Streets_DailyProfiles という名前のテーブルを以下の図に示します。フィールド PROFILE_1 は日曜日の ProfileID フィールドを、PROFILE_7 は土曜日の ProfileID フィールドを、PROFILE_2 から PROFILE_6 まで(図にはありません)は月曜日から金曜日までの ProfileID フィールドを表します。

選択されたレコード(ObjectID 111)に注目してください。これは、各曜日のプロファイルと、オブジェクト ID が 28803 の道路フィーチャの From-To 側を関連付けます。道路の From-To 方向は、EdgeFrmPos 値(0)と EdgeToPos 値(1)によって指定されます。交通量プロファイル 12 は、PROFILE_1 フィールドと PROFILE_7 フィールドの値が 12 であることから、日曜日と土曜日の道路の From-To 側を表します。SPFREEFLOW フィールドは、順調に流れているときに From-To 方向に道路を通過する移動速度を示します。

最初の 2 つのレコードに注目してください。最初のレコード(Object ID 109)は、道路セグメントの From-To 方向のプロファイル ID を格納し、2 番目のレコード(Object ID 110)は、同じ道路セグメントの反対方向のプロファイル ID を格納しています。これは、EdgeFCID と EdgeFID の値が同じで、EdgeFrmPos と EdgeToPos の値が逆になっていることから推定されます。また、日曜日と土曜日のプロファイル ID がゼロである点に注目してください。これは、データが収集されておらず、これらの日についてはプロファイルが選択されていないことを意味します。そのエッジの土曜日または日曜日の履歴移動時間を評価する場合、エバリュエータは、エッジ交通量エバリュエータに定義された 2 つめのコスト属性に戻る必要があります。

道路 - プロファイル結合テーブル

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9/14/2013