ラスタ データの統計情報
コントラスト ストレッチの適用やデータの分類など、ラスタ データセットまたはモザイク データセットで何らかのジオプロセシング処理を実行したり、ArcGIS for Desktop アプリケーション(たとえば、ArcMap または ArcCatalog)で特定のタスクを実行するには、統計情報が必要です。
ラスタ データセットの場合、ヒストグラムを含む統計情報は、内部に保管することができなければ、関連する補助ファイルに保存されます。補助ファイルを一度作成しておけば、あとで統計情報が必要になったときに再利用することができます。モザイク データセットの統計情報は、内部に保存されます。
統計情報の計算は、必要になったときに自動的に行われるため、必須ではありません。たとえば、ArcMap では、統計情報のないラスタ データセットが最初にデータ フレームに追加されたときに、ラスタ データセットのレンダリングのために統計情報が必要な場合には、デフォルトの統計情報がデータセットのサブセットから計算されます。これは一時的な統計情報であり、ラスタ データセットとともに格納されません。モザイク データセットの統計情報が存在しない場合は、ArcMap で表示されたときに自動的に計算されません。モザイク データセットの統計情報が存在する場合は、さらに多くのストレッチ手法(割合クリップやヒストグラム平坦化など)を利用できます。
[レイヤ プロパティ] ダイアログ ボックスでストレッチ パラメータを変更して現在の表示範囲の統計情報を使用するか、データセットの統計情報を生成することができます。[画像解析] ウィンドウの [表示] セクションでストレッチ パラメータを変更することもできます。ラスタを ArcMap で使用する前に、ラスタの統計情報を作成することをお勧めします。ラスタ データセットを表示する際に、統計情報が計算されるのを待つ必要がなくなります。
統計情報が存在しない場合は、ArcCatalog または [カタログ] ウィンドウで作成するか、[統計情報の計算(Calculate Statistics)] ツールを使用して作成できます。統計情報を計算する際には、スキップ ファクタと除外する値の 2 種類のパラメータを指定することができます。スキップ ファクタを設定すると、ピクセルをスキップすることにより、統計情報の計算プロセスが高速化します。ロウとカラムのデフォルトのスキップ ファクタは 1 です。この設定は、ラスタのすべてのセルが計算で使用されることを意味し、最も正確な統計情報を得られます。ArcSDE に保存された大きなラスタ、または大きなモザイク データセットの統計情報を計算する場合は、スキップ ファクタ(100 など)を使用することをお勧めします。大きな値を設定することで、統計計算に使用されるセル数が少なく済み、処理時間を節約することができます。スキップ ファクタはすべてのラスタ形式で使用されるわけではありません。統計情報を計算し、スキップ ファクタを利用するラスタ形式には、TIFF、IMG、NITF、DTED、RAW、ADRG、CIB、CADRG/ECRG、DIGEST、GIS、LAN、CIT、COT、ERMapper、ENVI DAT、BIL、BIP、BSQ、ジオデータベースがあります。除外する値を 1 つ以上指定することもできます。除外する値とは、背景値(衛星データのエッジなど)や NoData 値など、統計情報の計算時に使用したくないセル値のことです。
アプリケーションによって統計情報を計算しない場合は、[ラスタのプロパティを設定(Set Raster Properties)] ツールを使用して、ラスタ データセットまたはモザイク データセットの統計情報を定義することもできます。バンドごとに最小値、最大値、標準偏差、および平均値を入力するか、統計情報を含む XML ファイルから値を取り出すことができます。このファイルは、別のラスタまたはモザイク データセットから統計情報をエクスポートすることで作成できます。このツールによって、aux.xml に統計情報と一緒に格納されているヒストグラムをインポートすることはできません。
ラスタ データセットまたはモザイク データセットの統計情報は、データセットの [プロパティ] ダイアログ ボックスで確認することができます。次の例は、土地利用データセットなどの主題ラスタ データセットの統計情報を示しています。統計情報はバンドごとに計算され、ラスタ データセット内に複数のバンドがある場合は、バンドごとに統計情報が存在します。下図に示すように、統計情報の構築に使用されるパラメータが一覧表示されます。計算される統計情報には、最小ピクセル値、最大ピクセル値、計算されるピクセル値の平均および標準偏差があり、データセットが主題データである場合はクラスの数が列挙されます。データセットが連続階調データの場合、クラスの情報は表示されません。
グリッド データセットに対する統計情報は、グリッド ファイル形式の内部に保存され、常に存在するため、再計算することができません。統計情報の計算には、グリッドのセルのうち、セル値が NoData 以外のすべてのセルが使用されます。
モザイク データセットの統計情報
統計情報(およびヒストグラム)は、画像の自動ストレッチを有効にするために使用され、一部の解析で重要です。統計情報はモザイク データセット内の 3 つの場所に格納できます。
- モザイク データセット
- 各ソース ラスタ データセット
- 関数を適用した後のモザイク データセットの各ラスタ アイテム
モザイク データセットの統計情報
これらの統計情報は、表示されるモザイク データセット全体に適用されます。
モザイク データセットの統計情報を計算するときは、ベース ピクセルが調べられます。つまり、モザイク全体でピクセル サイズが最も小さいソース ラスタ データセットが調べられ、その統計情報が計算されます。スキップ ファクタの使用をお勧めしているのは、このためです。妥当なスキップ ファクタ値を指定するには、カラム数を 1,000 で除算し、その商(整数)をスキップ ファクタとして使用する方法があります。ただし、モザイク データセットにオーバービューがある場合、統計情報はオーバービューを使用して生成されます。オーバービューを構築するときに、統計情報は自動的に生成されます。
モザイク データセットの統計情報を計算するには、カタログ ウィンドウでモザイク データセットを右クリックし、[統計情報の計算] をクリックして、[統計情報の計算(Calculate Statistics)] ツールを開きます。このツールを直接開くこともできます。
ソース ラスタ データセットの統計情報
モザイク データセット内にあるソース ラスタ データセットの統計情報です。ラスタ データセットをカラー補正する場合は、この統計情報が必要です。
統計情報はモザイク デーセット内のラスタ データセットごとに自動的に生成されませんが、統計情報がまだ生成されていない場合は、ラスタ データをモザイク データセットに追加するときに、[統計情報の計算] チェックボックスをオンにしてソース ラスタ データセットごとに統計情報を計算できます。または、[ピラミッドと統計情報の構築(Build Pyramids And Statistics)] ツール を使用してモザイク データセットを入力として追加し、[統計情報の計算] および [ソース データセットを含む] オプションをオンにします。
ラスタ アイテムの統計情報
モザイク データセットの属性テーブルの各行は、モザイク データセットのラスタ アイテムを表します。ラスタ データセットとモザイク データセット内のラスタ アイテムには、必ずしも 1 対 1 の関係があるとは限りません。したがって、これらは分けて考えます。たとえば、ラスタ アイテムは、2 つのデータセットから作成されたパンシャープンされた画像を表す場合があります。各ラスタ アイテムには独自の関数チェーンを指定することができ、これにより統計情報が大きく変化する(そのため、レンダリングに影響する)場合があります。たとえば、NDVI 関数、算術関数、またはストレッチ関数はピクセル値を変更可能で、統計情報が変化する場合があります。ソース ラスタ データセットと同様、統計情報はモザイク データセットのラスタ アイテムごとに自動的に生成されません。
モザイク データセットのラスタ アイテムの統計情報を計算するには、次の方法を使用します。
- [ピラミッドと統計情報の構築(Build Pyramids And Statistics)] ツールを使用し、[統計情報の計算] オプションをオンにして、[ソース データセットを含む] オプションをオフにします。
- [モザイク データセットの同期(Synchronize Mosaic Dataset)] ツールを使用し、[統計情報の計算] オプションをオンにして、各ラスタ アイテムの統計情報を計算します。このツールでは選択内容が優先されます。したがって、統計情報はすべてのモザイク データセットのサブセットに対して計算されます。
統計関数とストレッチ関数
統計関数は、定義されたフォーカル近傍に基づいて、各ピクセルのフォーカル統計を計算します。このトピックで説明しているヒストグラムや統計情報は計算されません。
ストレッチ関数を使用すると、さまざまなストレッチ タイプを使用して明るさ、コントラスト、ガンマなどのプロパティを変更することにより、画像を改良できます。デフォルトでは、この関数が使用する統計情報はデータから抽出されますが、関数のダイアログ ボックスに独自の統計情報を入力することもできます。独自の統計情報を指定しない場合は、統計情報が計算済みであることを確認してください。また、先に説明したように、この関数をどこに追加するかによって、統計情報の計算に使用するツールが決まります。
- ストレッチ関数をモザイク データセットに追加した場合は、モザイク データセットの統計情報を計算する必要があります。
- ストレッチ関数をラスタの関数チェーンの 1 番目の関数として追加した場合、またはストレッチ関数がピクセル値に影響を与えるチェーンの 1 番目の関数である場合は、ラスタ データセットの統計情報を計算する必要があります。
- ストレッチ関数がピクセル値に影響を与える関数の後に追加された場合は、ラスタ アイテムの統計情報を計算する必要があります。
カラー調整
カラー調整では、画像間のトレンドを除去して、画像の継ぎ目が見えにくくなるようにします。カラー調整を使用する場合は、モザイク データセット内のラスタの統計情報が存在している必要があります。[モザイク データセットのカラー調整(Color Balance Mosaic Dataset)] ツールまたは [モザイクのカラー補正] ウィンドウを使用してモザイク データセットをカラー調整するときに、含まれているラスタ データセットに統計情報がない場合は、カラー調整が失敗し、統計情報がないことを示すメッセージが表示されます。
表示プロパティ(デフォルトのストレッチの無効化)
デフォルトでは、統計情報が存在する場合、アプリケーション(たとえば、ArcMap)はストレッチを適用して画像を改良します。モザイク データセットの画像をあらかじめストレッチしている(改良済みである)場合、またはストレッチ関数をすでに使用している場合は、アプリケーションでデフォルトのストレッチを適用する必要がありません。この場合はプロパティを変更して、このデフォルトのストレッチを無効にできます。モザイク データセットのプロパティを開き、[一般] タブをクリックします。次に、[ソース タイプ] プロパティの値を [処理済み] に設定します。