傾斜方向の仕組み
傾斜方向は、各セルから近傍に向かって下りの傾斜角が最大の方向を特定します。傾斜方向は、斜面の方向と考えることができます。出力ラスタの各セルの値は、その位置でサーフェスが向いているコンパス方向を示しています。傾斜方向は、0 度(真北)~ 360 度(真北)で右回りに計測されます。下り方向のない平坦な領域には -1 という値が割り当てられます。
傾斜方向データセットの各セルの値は、セルが傾斜している方向を示します。
概念的には、[傾斜方向(Aspect)] ツールは、処理中のセル(中央セル)を中心とした近傍 3 x 3 のセルの Z 値に平面をフィットさせます。平面が向く方向が処理中のセルの傾斜方向です。
以下の図に、入力標高データセットと出力傾斜方向ラスタを示します。
傾斜方向(Aspect)ツールを使用する目的
[傾斜方向(Aspect)] ツールでは、次の操作を行えます。
- スキーに最適な斜面を検索する際に、ある山の北側斜面をすべて検出する。
- 各地の生活の多様性を調べる研究の一環として、ある地域の各場所における直射日光照度を計算する。
- 雪解け水が最初に流れ込む可能性がある住宅地域を特定する研究の一環として、山岳地域の南に面する傾斜のうち、雪が最初に融ける場所を検出する。
- 緊急時に航空機が着陸できる平坦地を特定する。
傾斜方向のアルゴリズム
移動する 3 x 3 の枠が入力ラスタの各セルを巡り、枠の中央にある各セルについて、そのセルの 8 個の近傍セルの値を加味したアルゴリズムを使用して傾斜方向の値が計算されます。セルは a から i の文字で識別され、e が傾斜方向が計算されるセルを表します。
セル e の X 方向の変化率は、次のアルゴリズムで計算されます。
[dz/dx] = ((c + 2f + i) - (a + 2d + g)) / 8
セル e の Y 方向の変化率は、次のアルゴリズムで計算されます。
[dz/dy] = ((g + 2h + i) - (a + 2b + c)) / 8
セル e の X 方向と Y 方向の両方の変化率を考慮して、傾斜方向は次のように計算されます。
aspect = 57.29578 * atan2 ([dz/dy], -[dz/dx])
傾斜方向の値は、次の規則に従って、コンパス方向の値(0 ~ 360 度)に変換されます。
if aspect < 0 cell = 90.0 - aspect else if aspect > 90.0 cell = 360.0 - aspect + 90.0 else cell = 90.0 - aspect
傾斜方向の計算例
例として、移動する枠の中央セルの傾斜方向の値を計算します。
中央セル e の X 方向の変化率は、次のように計算されます。
[dz/dx] = ((c + 2f + i) - (a + 2d + g)) / 8 = ((85 + 170 + 84)) - (101 + 202 + 101)) / 8 = -8.125
中央セル e の Y 方向の変化率は、次のように計算されます。
[dz/dy] = ((g + 2h + i) - (a + 2b + c)) / 8 = ((101 + 182 + 84) - (101 + 184 + 85)) / 8 = -0.375
傾斜方向は、次のように計算されます。
aspect = 57.29578 * atan2 ([dz/dy], -[dz/dx]) = 57.29578 * atan2 (-0.375, 8.125) = -2.64
計算された値がゼロより小さいため、最終ルールが次のように適用されます。
cell = 90.0 - aspect = 90 - (-2.64) = 90 + 2.64 = 92.64
中央セル e の 92.64 という値は、その傾斜方向が東方向であることを示しています。
参考文献
Burrough, P. A.、McDonell, R. A.共著、1998、『Principles of Geographical Information Systems』(Oxford University Press、New York)、190 pp。